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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)491号 判決

上告人

山田正信

代理人

真田幸雄

被上告人

中野芳明

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人真田幸雄の上告理由第一点について。

訴外合名会社田辺商店が上告人および訴外山田正一を共同の取引相手として文房具類の卸販売をして、昭和三二年四月二六日当時五四万六〇九二円の売掛代金債権を有し、右訴外会社と上告人との間において、右債権および以後の取引から生ずることあるべき売掛代金債権を担保するため、本件不動産につき根抵当権を設定することを合意してその登記を経た旨の原判決の事実認定は、その挙示する証拠に照らして正当として是認することができないものではない。所論のような原審における被上告人の主張の変更が自白の取消にあたるものと解することはできないし、また、論旨引用の各証拠および被上告人の弁論の趣旨に照らしても、右事実認定の過程に所論の違法を認めるに足りない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および右事実認定を非難するものであつて、採用することができない。

同第二点について。

所論の債権譲渡による代物弁済の事実が認められないとした原判決の認定は、証拠関係に照らして正当として是認することができ、この点の認定判示に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであつて、採用することができない。

同第三点について。

上告人および山田正一が、原判決判示のころ本件売掛代金債権につき債務の承認をした旨の原判決の事実認定、判断は、その挙示する証拠に照らし、是認することができないものではない。しかして、その後二年以内に、上告人は、債務負担の事実がないことを主張して、本件根抵当権設定登記および同移転登記の各抹消登記手続を求める本訴を提起し、これに対し被上告人は第一審第一回口頭弁論期日における答弁書の陳述をもつて、請求棄却の判決を求めるとともに、確定債権五〇万円の取得およびこれに基づく右各登記の有効なことを主張したのであつて、これによつて被上告人の本件売掛代金債権についての権利行使がされたものと認められないことはない。このような場合においては、被上告人の前示答弁書に基づく主張は、裁判上の請求に準じるものとして、本件売掛代金債権につき消滅時効中断の効力を生じるものと解するのが相当である。したがつて、右債権について消滅時効が中断されているものとした原審の判断は正当であつて、これに所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

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